山里の春の訪れ、宝珠寺のヒメシダレ桜

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ヒメシダレ桜
宝珠寺のヒメシダレ桜の動画

ソメイヨシノとは違った美しさ

佐賀県神埼市の山里にひっそりと佇む禅寺「宝珠寺」に1本のヒメシダレ桜があります。樹の高さ約8m、幹周り1.2m、枝張り15mもあるこの桜の木は、樹齢100年にもなります。日本国内の桜で圧倒的に植えられている品種「ソメイヨシノ」の寿命は70~60年といわれていますから、長寿の桜といえるのではないでしょうか。宝珠寺のヒメシダレ桜は、長年にわたって普段我々が見ている桜とは、違った美しさを愛でることができます。今回は、桜を引き立てる自然環境豊かなロケーションの神埼市仁比山地区について考察していきながら、ヒメシダレ桜の魅力について迫っていきます。

本堂の前にあるヒメシダレ桜

いろんな方向からヒメシダレ桜を味わいましょう

神埼市仁比山地区は、背振山地を水源とする城原川の流域にあたり、宝珠寺のヒメシダレ桜のある場所は、急峻な山地を通る急流から高低差の少ない低平地を通る緩流に変化する境目の地域です。山あり谷あり平野ありの景色は、バリエーションに富んでおり、様々な情緒を楽しむことが出来ます。宝珠寺のヒメシダレ桜も例外ではなく、見る方向によって里山に映えたり、麦田に映えたり、畦道やこじんまりとしたお堂に映えたりします。みなさんも訪れた際は、是非いろんな方向から1本のヒメシダレ桜を愛で、その美しさを味わってみましょう。

城原川と仁比山地区の町並みの空撮動画

宗教・文教の色濃い仁比山地区

城原川が穀倉地帯の佐賀平野に流れ出る水口にあたる仁比山地区は、古来より城原川流域の農業用水の利水を決める重要な場所です。飛鳥・奈良時代に全国の治水・開墾事業に尽力した僧の行基は、729年に松尾明神を勧請し、国家安泰・五穀豊穣を祈願した仁比山神社をこの地に創始しました。奈良時代に仁比山神社が創建されて以来、数多くの神社仏閣がこの地に建立され、仁比山地区は、宗教・文教の色濃い地域になっていきました。

宝珠寺の門

江戸時代に建立された宝珠寺

江戸時代にこの地を治めていた鍋島藩は、当時中国から伝来し、最新の仏教であった黄檗宗を厚く保護し、藩の領地にいくつかのお寺を建立しました。そして神社仏閣の多い仁比山地区に建てられたのが宝珠寺であり、1708年に鍋島石雲が施主となり、長靈が開山しました。宗教・文教の色濃い仁比山地区に、宝珠寺を建立したことは、黄檗宗を鍋島藩内に黄檗宗を広く発信することに貢献したのではないかと思われます。

麦田と宝珠寺のヒメシダレ桜

農業が仁比山地区の発展を促す

江戸時代から大正時代にかけては、城原川の豊富な水量を生かして、仁比山地区に約60基からなる大水車群を形成しました。水車の動力で精米や麦、蕎麦の製粉作業を大量にこなすことが可能になり、この地域の農業がますます盛んになりました。良質な小麦を使った神埼市の特産品「神埼そうめん」は、水車の製粉がもたらした賜物といってよいでしょう。

見物客で賑わう宝珠寺のヒメシダレ桜

青い麦田が、ヒメシダレ桜を引き立てる

現在はエネルギー革命などにより水車は姿を消しましたが、農業や神埼そうめんの生産は盛んに行われています。宝珠寺付近の耕作地にも麦の栽培が積極的に行われており、青々とたくましく育った麦が、淡いピンク色に開花した宝珠寺のヒメシダレ桜を引き立てています。

ヒメシダレ桜の花びら

ソメイヨシノよりも早く開花するヒメシダレ桜

ヒメシダレ桜は例年、ソメイヨシノよりも1週間早い3月中旬に開花し3月下旬に見頃を迎えます。花びらはソメイヨシノよりも小さく、下がった枝にたくさんの花が咲き、咲き始め薄紅色からだんだんと白く変化していく様子も味わい深いものがあります。

ヒメシダレ桜を間近に見る

見物客の目線までしだれている枝

樹齢100年もある老木は、子供の頭の高さまでしだれており、容易に間近で花びらを観賞することができます。また、枝張りが15mもあるヒメシダレ桜の巨木は、お寺の隣の麦田まで枝が伸びています。かつては、麦田のあぜ道まで足を伸ばして間近で見ることができたのですが、最近では見物客が多くなったせいか立ち入り禁止になってしまいました。しかし遠くから見る風景も素晴らしく、麦の鮮やかな緑と、ヒメシダレ桜の淡いピンク色のコントラストが美しく映えます。

周りの環境と共生するヒメシダレ桜

長い年月の積み重ねが調和を生む

宝珠寺は禅宗の一派である黄檗宗の寺で、こじんまりとした古民家のような本堂の前にヒメシダレ桜があります。境内には、ヒメシダレ桜のほかに、ツバキ・シキミなどがあり、多くの木々で覆われています。多品種の木々がありながらも、過度な自己主張がなく、まわり風景と調和している様子を見ていると、長い年月を経てまわりと共生しながら積み重ねていったものが、あるのだなあと感心します。

宝珠寺のヒメシダレ桜の良さを味わいましょう

古来より神社仏閣が多く建立され、明治時代には紅葉の名所である九年庵ができるなど、城原川流域の自然の恵みを受けながら時代ごとに文化が花開いた神埼市仁比山地区。そんな仁比山地区の一角にある宝珠寺のヒメシダレ桜は春になると、近くの土器山や、山里の風景、この地域で盛んに栽培されている麦、宝珠寺のこじんまりとした古民家風の本堂、宝珠寺境内に生えている木々など、周囲の環境に溶け込み、淡い色を輝かせながら立派に咲いています。最近は観光客も増え、佐賀県の名木古木100選に選ばれた宝珠寺のヒメシダレ桜。ソメイヨシノよりも早く花開くこの桜は、可憐というよりも、幽幻な雰囲気を持ち合わせており、ゆったりと小さなお寺で味わう良さがあります。みなさんも宝珠寺のヒメシダレ桜に訪れてみて、春の山里の自然を満喫してみてはいかがでしょうか。

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