朱色に塗られた巨大な鋼鉄製の平戸大橋
長崎県平戸市にある平戸大橋は、平戸市の面積の大半を占める平戸島と九州本土の平戸市田平町をつなぐ吊り橋です。鮮やかな朱色に塗られた全長665mもある巨大な鋼鉄製の橋は、平戸瀬戸海峡に架けられた平戸島へアクセスする交通の大動脈であり、平戸市のランドマーク的な存在でもあります。今回は、平戸島と九州本土を隔てる平戸瀬戸海峡にまつわる歴史をふまえながら、平戸の美しい自然と調和し、平戸の人々の生活や観光に欠かせない存在となっている平戸大橋について迫っていきます。
平戸島と九州本土を隔てる平戸瀬戸海峡
平戸島は古来より海外貿易が盛んで、江戸時代に幕府が国際貿易港として長崎を整備する前は、対外通商の拠点として重要な地位を担っていました。そんな平戸島と九州本土を隔てる平戸瀬戸海峡は交通の要所となっていましたが、大潮となれば秒速4mになり、船での航行を難しくさせました。江戸時代に平戸島を本拠としていた平戸藩は、平戸瀬戸海峡を舟で渡っており、九州本土側にあたる現在の田平町日の浦には、参勤交代時の舟待ちのために日ノ浦本陣も築かれていました。当時の造船技術では急な潮の流れに対応できる船を建造することは難しく、潮目を見計らって平戸瀬戸海峡を渡っていました。
捕鯨が盛んだった平戸瀬戸海峡
平戸瀬戸海峡は、平戸島と九州本土の北松浦半島を隔てる海峡で南北約3.5kmあります。ややS字に湾曲しており、最狭部の幅500mあるところに平戸大橋が架けられています。平戸瀬戸海峡は、春に北の海に戻る鯨が通過するルートになっています。鯨は潮流に逆らって泳ぐ習性があり、激しい潮流で泳ぐ速度が落ちたところを狙う捕鯨が古来より盛んに行われました。平戸瀬戸海峡に面したところに「つぐめの鼻遺跡」には、石銛と鯨の骨が出土されており、縄文時代から捕鯨が始まっていたのではないかと言われています。江戸時代の突取捕鯨、明治〜昭和時代の銃殺捕鯨と捕鯨技術が向上していき、漁獲量も拡大しました。平戸大橋の架かる平戸瀬戸海峡は、地域経済を支える重要な漁場でもありました。
平戸大橋の架橋を求める声が上がる
大正時代には、平戸島と九州本土の架橋を求める声が上がり始めます。その後しだいに人々の関心が集まっていき、昭和に入ると本格的な架橋運動が始まります。しかし日本が昭和10年代に日中・太平洋戦争に突入したため、断念せざるを得なくなりました。戦後の経済復興を遂げ、昭和30年に平戸島内の町村が合併し、旧平戸市が誕生すると架橋を求める声が再び起こります。昭和44年には国から平戸大橋有料道路の建設が認可され、昭和52年4月に4年の工期と、総工費56億円を投じた平戸大橋が完成しました。
地元に多大な恩恵をもたらした平戸大橋の開業効果
平戸大橋が架橋される前は、平戸港と田平港を結ぶフェリーが、九州本土への交通手段のメインとなっていました。帰省シーズンなどの交通量が増える時期には、平戸港側、田平港とも1km以上も乗船待ちの車の列ができるほどの混雑でしたので、それを解消した平戸大橋の開業効果は大きいものがありました。平戸大橋の一般供与が始まって約1年が経過した昭和53年3月末には、長崎県の想定を大きく上回る約138万台が通行し、観光客も開通初年度の昭和52年度は、238万人と前年度の91万人から約2.6倍に急増しました。平戸大橋の開業は、平戸島への交通アクセスの改善を促し、地元に多大な恩恵をもたらすものとなりました。開通当初は有料だった通行料金も徐々に引き下げられ、平成22年には無料になります。令和元年の通行台数は約314万台に達し、人々の生活や経済活動に欠かせないライフラインとして現在も機能しています。
平戸大橋の様々なビュースポットが点在する平戸公園
平戸瀬戸海峡に架けられた平戸大橋には、平戸島側に平戸公園、九州本土側には田平公園が整備されており、双方の公園から平戸大橋の様々な姿を眺めることができます。面積が14.4haある平戸公園は敷地内に、平戸大橋の真下にある波打ち際の海浜広場、そして平戸城やオランダ商館などのある平戸市街が望める展望台もある高低差の富んだ公園です。その他にも公園内には洋風庭園や遊具広場、花園広場などがあり、平戸瀬戸海峡の四季の自然を感じながら、様々な角度から平戸大橋が見えるビュースポットが点在します。ゆっくりと公園内を歩いて、見る場所で変化する風景を楽しんでみるのも良いでしょう。
完成時から多くの人々から愛され続けている平戸大橋
平戸大橋は歩道があるので、両端にある田平公園か平戸公園から歩いて渡るのも良いのではないでしょうか。全長665mの平戸瀬戸海峡に架かる朱色の吊り橋を歩くと、自動車での移動では味わえない平戸大橋の魅力を感じることができます。橋桁の高さは30mで、3千トンクラスの船は航行可能です。潮の流れが激しくて、可航幅が400mと狭く航行しづらい平戸瀬戸海峡ですが、九州北岸と九州西岸を結ぶ最短ルートであることから、多数の小型船が行き交っており、橋からは最狭部の難所を力一杯進んでいる船を見学できます。橋桁を吊る鉄製ロープは、工学上で計算された強度を誇る頑丈なロープです。歩いて橋を渡るとこの大きなロープの存在感がとても大きく見えます。風速25m以上にならない限りは、自動車での通行が24時間可能な平戸大橋。人々の営みをがっちりと支える景観の美しいこの吊り橋は、橋の完成時から愛され続けています。みなさんも平戸大橋を訪れて、その魅力に触れてみてはいかがでしょうか。
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