熊本の大自然に抱かれた心安らぐ棚田、江戸時代から積み重ねてきた原風景が現代に生きる我々に彼岸花の圧巻の光景をみせる番所の棚田

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山鹿市

熊本県一の彼岸花の名所といわれる番所の棚田

熊本県山鹿市菊鹿町にある番所の棚田は、日本の棚田百選に選ばれた景観の美しい棚田です。9月中旬になると、畦道にたくさんの彼岸花が咲き、多くの人が賞賛する光景は熊本県一の彼岸花の名所といわれています。黄金色に実った稲穂と真っ赤な彼岸花のコントラストが美しく、どこか懐かしい秋の日本の山村の風景が広がっています。江戸時代中期からの伝統のある棚田ですが、近年は高齢化や後継者不足などの問題が深刻となっています。しかし番所の棚田の集落の住民は棚田の持っている価値を再認識することで、棚田の保全活動に積極的に取り組み、集落の活性化に乗り出しました。住民による手作りの活性化策が実を結び、今では秋の彼岸花の時期にはより多くの来訪者を迎え入れるところまでになりました。今回は番所の棚田の彼岸花に触れながら、棚田の魅力に迫っていきます。

黄金色に実った稲穂と彼岸花

古代から米作りが盛んな山鹿にある番所の棚田

番所の棚田のある山鹿市は、阿蘇を水源域とする菊池川の中流域に位置します。菊池川のもたらす豊富な水と、肥沃な土壌に恵まれていたため、古代から米作りを中心とした穀倉地帯が形成されていきました。菊池川流域には、装飾古墳群や鞠智城など穀倉地帯として繁栄してきたことを物語る史跡が数多く残っています。そんな米どころ山鹿にある番所の棚田は、江戸時代中期から明治時代にかけて、急峻な斜面を切り開いて開発した場所です。

坂の畦道に咲く彼岸花

江戸時代に御番所付近の急な斜面を棚田として開発

熊本・福岡・大分の県境にある番所の棚田は、もともと山鹿と大分県の日田を結ぶ往還(道路)の御番所(通行人や荷物を調べる関所)がありました。この御番所付近の急な斜面を開発していたできた御番所の棚田がいつしか「御」が抜けて番所の棚田と呼ばれるようになりました。番所の棚田は江戸時代中期から明治時代にかけ、人の手によってこつこつと面積を広げていき、現在の形に至ります。昔の建設・建築技術が光る番所の棚田は、先祖代々大切に守られてきた伝統のある文化遺産でもあります。

番所の棚田が抱える後継者問題

平成4年に県農村景観大賞、平成11年に日本の棚田百選に選定されるなど多くの賞を受賞し、彼岸花咲く時期には美しい風景が展開し多くの見物客が訪れる番所の棚田。そんな世間から多くの賞賛を受けて山鹿市の名所にもなっている番所の棚田ですが、耕作されていない田んぼも見受けられるようになり、将来美しい棚田を守っていく後継者がいないという問題が深刻化しています。棚田は傾斜が多く平地にある水田よりも生産性が低いなどのマイナス面もあり、若い人がなかなか就農しないという現状があります。そのため山鹿市では番所の棚田を対象とした景観農業振興地域整備計画を策定し、景観に配慮した農業生産基盤の整備を行うなど、地区が抱える様々な問題を解決していく施策を打ち出しています。

石積みと彼岸花

地元の活性化に取り組む住民

高齢化や後継者問題に直面した住民たちは、棚田の将来に不安を感じていましたが、たくさんの人々が訪れたり、外部から高い評価を受けたりしている番所の棚田の状況を見て、景観の重要性を再認識しました。毎年秋分の日に観光協会と連携して棚田ツアーを開催し、参加者と農家の交流をはかったり、郷土料理の販売や対話を行ったりすることで地元の活性化に取り組みました。また「外から人が見に来るのできれいにしよう」という意識のもと、草刈りや畦道・石積みなどの維持管理、また彼岸花の植え付けも行っています。近年、我々が目にしている彼岸花で彩られた番所の棚田の美しい景観は、地元の方々が天塩にかけて作り上げたいわば、手造りの景観といえるのではないでしょうか。

山に囲まれた所に立地している番所の棚田

番所の棚田とその周辺の豊かな自然

番所の棚田は、八方ヶ岳をはじめとする1000m級の山々に囲まれた場所にあり、それらを源とする清流の水が高低差約80mの棚田に入ります。番所の棚田は、田んぼと人々が住む集落を石積みの上に築きあげており、周囲の山の斜面と重なりあう美しい景観を見ることができます。山鹿市街地から上内田川を上流へ車で30分のところにある番所の棚田は矢谷渓谷の一角にあり、周辺には、天然の滝すべりが楽しめる場所があります。秋の彼岸花以外にも、春には桜や新緑が美しく、夏には清流で涼しく過ごすこともできます。また冬には雪景色が広がるなど、四季を通じて異なる魅力があります。

番所の棚田が、様々な側面でみせる存在価値

番所の棚田は、約14haの面積の広さと約200枚の田んぼを持ちます。棚田は米の生産だけでなく、地滑りなどを防ぐ砂防の役割や貯水、そして大雨による川の氾濫を緩和するなどの「自然のダム」としての機能を発揮します。9月中旬には畦道や農道沿いに真っ赤な彼岸花が咲き、黄金色に輝く稲穂と棚田の石垣が見事に調和した圧巻の風景が広がります。また秋の夜長が本格化する頃には番所の棚田全体が夜にライトアップされ、幻想的な雰囲気を味わうことができます。このように棚田には様々な側面があり、米などの農業生産だけに限らない存在価値が秘められています。

どこか懐かしい日本の原風景がある番所の棚田

彼岸花は田んぼの畔に植えるとモグラよけになり、非常時には毒を抜いて食用にもなります。そのような実用性もあって彼岸花が植えられ、日本の農村の秋の風景に欠かせないものとなりました。番所の棚田には彼岸花と高低差ある石積みの棚田、古い家並みとどこか懐かしい日本の原風景があります。「ここを見ないと秋が来たような気がしない」という人も多く、毎年彼岸花を見に来るリピーターが多いのも特徴です。皆さんも番所の棚田を訪れてみて、棚田の魅力を発見してみてはいかがでしょうか。

 

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