船舶と航空機の交通の過密地帯に造られた陸の交通インフラ、様々な制約を乗り越え技術の粋を結集した機能美を感じる東京湾アクアライン

スポンサーリンク
トンネル

建設するにあたり、様々な制約があった東京湾アクアライン

神奈川県川崎市と千葉県木更津市を結ぶ東京湾アクアラインは、東京湾の中央部を横断する自動車専用道路です。東京湾アクアラインの構造は全国的にも珍しく、川崎側から9.5km区間が「海底トンネル」、木更津側から4.4kmが「橋梁」となっており、トンネル区間の中央には風の塔と呼ばれる換気施設を持つ川崎人工島、トンネルと橋梁の接続部には海ほたると呼ばれるパーキングエリアとなっています。アクアラインの橋梁は、明石海峡大橋のような海面から高いところに道路がなく、海面から比較的近い場所を自動車が走る区間もあるので、TVなどの情報媒体でしばしば取り上げられ、人気のドライブコースにもなっています。現在、東京都市圏の環状道路の一部として機能し、首都圏の発展に重要な役割を担っている東京湾アクアラインですが、海や上空の交通が活発な東京湾では様々な制約があり、建設に困難を極めました。今回は東京湾アクアラインの魅力に触れながら、その歴史に迫っていきます。

海ほたるとその先の風の塔 (写真提供:NEXCO東日本)

船舶と航空機の通行を妨げないために、川崎側を海底トンネルで建設することを決定

平成9年12月に完成した東京湾アクアラインは、調査に約20年、建設に10年かかり、総工費1.4兆円を要するビッグプロジェクトでした。川崎側の東京湾は日本有数の生産額を誇る京浜工業地帯と外資コンテナの国内取り扱い数の1位と2位を占める東京港と横浜港があるため、船舶の過密航行区域となっています。そのため船舶の航行を妨げない桁高の高い吊り橋も検討されましたが、近接する羽田空港を離発着する航空機に影響を与えるとのことから、架橋は技術的に困難との認識になりました。一方のトンネル建設は、海面下20~30mの厚さで堆積している軟弱な粘性土層の懸念がありましたが、地盤改良を施すことで対応が可能であったため、川崎側の東京湾横断部分は、海底トンネルを建設することに決まりました。

「土木のアポロ計画」と呼ばれた東京湾アクアラインの建設

世界の海洋土木工事でも最大規模であった東京湾アクアラインは、設計から施工まで当時の最先端の技術とノウハウを集結し、数多くの新技術・新工法が開発・実用化されました。トンネル堀進には、シールドトンネル工法が採用され、高水圧と軟弱地盤が連続する悪条件に対応するために、直径14.14m・重量3200tもある当時最大口径であったシールドマシンを開発しました。シールド工事は川崎側の入り口となる浮島取付部と川崎人工島、木更津人工島の各立杭から8基のシールドマシンを稼働させ、上・下線の各中央部の4ヵ所で地中接合しました。また高精度の線形管理システムやGPSが活用され、運用実績を残しました。「土木のアポロ計画」とも呼ばれた東京湾アクアラインの建設実績は、日本の土木技術に向上をもたらす出来事でした。

海ほたるにあるオブジェ

首都圏の経済発展に大きく寄与した東京湾アクアライン

平成の初期までは、川崎から木更津に向かうには、東京湾を半周するか、カーフェリーで行くしかありませんでした。しかし平成9年に東京湾アクアラインが開通して以来、川崎〜木更津間は、自動車を使って所要時間約30分の往来が可能になったため、様々な変化をもたらしました。東京湾アクアラインを経由するバスは、開通当初1日121便でしたが、コロナ前の平成29年には494便と大きく増加しました。そして千葉と東京・神奈川方面への移動が従来よりも格段に便利になったことで、木更津周辺地域の転入・定住人口が増加します。また大型商業施設をはじめとする大型店舗が続々と出店し、工業団地への企業進出が進んでいきました。東京湾アクアラインは、木更津周辺地域のみならず、首都圏全体の経済発展に大きく寄与する交通インフラとなりました。

 

抜群のビュースポットを備えたサービスエリア「海ほたる」

建設時、トンネルを掘削する拠点となった木更津人工島は、東京湾アクアラインが完成すると、トンネルと橋梁を接続する役割を担いました。そしてこの人工島に、世界でも珍しい海に浮かぶパーキングエリア「海ほたる」を設置します。豪華客船をイメージした造りとなっており、レストランや売店をはじめ、ガソリンスタンドやコンビニ、カフェチェーンなど店舗も充実しています。また4階にある無料休憩所「海の見える大回廊」はぐるりと一周海を見渡せるガラス張りの設計となっており、行き交う船舶や航空機、見晴らしが良ければ、横浜ベイブリッジ、東京タワー、高層ビル群、幕張メッセが見え、富士山まで望むことができます。幸せの鐘や海底トンネル掘削のシールドマシンが実際に使用した巨大金属カッターも展示しており、海ほたるの旅情を一層引き立てます。抜群のビュースポットを持ち、飲食やショッピングを備えた海ほたるは、多くの観光客を集客することに成功しました。

海ほたるに展示されているシーリングマシンの金属カッターと川崎側の海を望む

当時の土木技術の粋と周囲の風景に調和した機能美を感じる東京湾アクアライン

かつて建設時に木更津人工島とともにトンネル掘削の拠点となった川崎人工島は、完成し一般供与が始まると、海底トンネルの換気設備を導入し、機能しました。「風の塔」と呼ばれる換気塔が構築され、周辺を往来する多数の船舶から分かりやすいように視認性の優れた構造を基本とした、海抜96mの大塔と81mの小塔で構成されています。ヨットの帆に見える「風の塔」と豪華客船のように見える「海ほたる」、そして長大な線状物が木更津側まで続く「橋梁部分」。当時の土木技術の粋をあつめた東京湾アクアラインは、耐震性や橋を渡る自動車、周辺を通る船舶や航空機に配慮した建造物として完成しており、その機能美は東京湾の風景にうまく調和されているように感じます。皆さんも東京湾アクアラインを利用してみて、その素晴らしさを確かめてみてはいかがでしょうか。

海ほたるから東京湾を眺める

コメント

タイトルとURLをコピーしました