田道間守命が橘を植えた言い伝えから発展していき境内の中嶋神社は菓子業者の信仰を集める、秋に行われる合戦祭り「トンテントン祭り」は罪やけがれを清める神幸祭、由緒ある神社を合祀し伝統に彩られた伊萬里神社

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けんか祭り

 

伊万里の総鎮守、伊萬里神社

佐賀県伊万里市にある伊萬里神社は、古代からの歴史を持つ香橘神社が鎮座していた場所に、3つの由緒ある神社を昭和37年に合祀した伊万里の総鎮守の神社です。主祭神は橘諸兄命で、毎年10月には御神幸祭「トンテントン祭り」が伊万里市街地で勇壮に執り行われます。また伊萬里神社の境内社である中嶋神社は、全国でも珍しいお菓子の神様である田道間守を祀っています。境内のある岩栗山には伊万里出身の森永製菓の創業者である森永太一郎の像も建っており、数々の製菓メーカーの創業者を輩出した佐賀の地を実感させられます。今回は合祀される前の香橘神社や境内社の中嶋神社、トンテントン祭りの歴史に触れながら、伊萬里神社の魅力に迫っていきます。

厳かな雰囲気の境内

日本で初めて橘が植えられたとの言い伝えがある「橘の宮」

伊萬里神社は、もともと香橘神社が鎮座する地に、戸渡嶋神社、栗岩神社を昭和37年に合祀して成立した神社です。旧県社であった橘香神社は、景行天皇の時代である西暦72年に創建されたといわれる歴史のある神社です。社伝では垂仁天皇の命で常世の国(現在の中国江南地方)に遣わされた田道間守は、不老長寿の妙薬と称された非時香菓を日本に持ち帰りました。命懸けの航海を経てやっとの思いで日本にたどり着いた田道間守命は、伊万里の岩栗山に登ります。岩栗山からの景色に大変感動した田道間守命は、非時香菓を一株植えました。この言い伝えを聞いた橘嶋田麻呂が、橘氏の族祖である橘諸兄との因縁を思い、橘諸兄を祀る者を祀る創建したことが始まりとされています。この非時香菓というのは橘のことで、香橘神社は、日本で初めて橘が植えられた土地に創建されました。そして現代に至るまで人々の尊崇を集め、伊萬里神社となった後も「橘の宮」と称されています。

お菓子の神様として多くの人々から崇敬を集める中嶋神社

橘を植えた田道間守命を祀る中嶋神社

香橘神社は昭和37年に合祀されて伊萬里神社となりました。また伊萬里神社の境内には橘を植えた田道間守命を祀る中嶋神社があります。橘はみかんの原生種といわれ、7世紀後半に建立されたとされる中嶋神社は、みかんの神様となりました。そして古来の日本では「菓子」は当時貴重な甘味であった「果物」を指す言葉でもありました。橘は菓子の最上級品とされていたことにちなみ、中嶋神社はお菓子の神様として人々の信仰を集めるようになります。

 

菓子づくりの業者が信仰した中嶋神社

長崎の出島から佐賀を経由し小倉に至る長崎街道は、別名シュガーロードと呼ばれ、大量の砂糖や、西洋の製菓技術がもたらされる街道でもありました。そして多くの菓子屋や菓子職人が新たなスイーツをつくり上げました。長崎のカステラはその代表的な菓子であり、佐賀県内では、小城羊羹や丸ぼうろなどが挙げられます。江戸時代以降に盛んになってきた菓子作りの業者は、お菓子の神様である中嶋神社を信仰するようになりました。長崎街道沿いの菓子作りは、江戸時代の文化が成熟していくにつれ、進化と成長を続けました。こうして江戸時代に菓子作りの土壌が形成されていった佐賀は、明治時代になると日本を代表する菓子メーカーの創業者が誕生するようになります。今でも橘の木が植えられている中嶋神社は、伊万里の地から、佐賀そして日本の製菓業を見守ってきた神社です。

 

200年以上続く合戦祭り「トンテントン祭り」

毎年10月中旬に行われる「トンテントン祭り」は、伊萬里神社の御神幸祭です。約200年以上続いているこの祭りは、香橘神社と戸渡神社でそれぞれ行われていた収穫感謝の御神幸祭に端を発しています。香橘神社の御祭神である橘諸兄の子孫に楠木正成がいます。また戸渡嶋神社は足利尊氏が敗戦して九州に逃れた折りに、松浦沖の海上で暴風雨に遭いました。その時に足利尊氏は救いの神として戸渡嶋神社を祀り、難を逃れたとの言い伝えがあります。楠木と足利の両者が合戦を繰り広げた南北朝時代の故事にならい、荒神輿を楠木方、団車を足利方に見立てた合戦祭りになったといわれています。

 

荒神輿と団車が伊万里川に落ち、最高潮を迎える「トンテントン祭り」

祭り期間中は、伊万里市街地で合戦が行われます。「トン・テン・トン」と打ち鳴らされる太鼓を合図に、荒神輿と団車がぶつかり合うという激しい戦いが繰り広げられ、最後は伊万里川に双方組み合ったまま落ちて上陸を競います。荒神輿が早く陸に上がると翌年は豊作、団車が早く陸に上がると翌年は豊漁とされており、トンテントン祭りは最高潮を迎えます。日本三大けんか祭りに数えられ、年によっては多数のけが人が出ることもありますが、地域の罪やけがれを祓い清める祭りでもあり、伊万里の秋を彩る伝統行事といっても過言ではありません。

伊萬里神社の楼門

縁起や伝統を大切にしながら発展させていった伊萬里神社

伊萬里神社は、駐車場脇にある鳥居から玉砂利の参道が始まります。玉砂利の道をざっくざっく歩いていくと趣きのある緩やかなアーチを描く太鼓橋があります。太鼓橋の下には池があり、鯉が泳いでいます。伊万里川に沿って造られた参道の先には、竜宮城を連想するような立派な楼門があります。楼門からは岩栗山の中腹に鎮座する伊萬里神社の本殿まで、階段が続いています。岩栗山は緑豊かな山で、緑に囲まれた場所に伊萬里神社の社殿があります。生命力あふれる楠などは訪れる人の気持ちを和ませ、田道間守命が橘を植えた言い伝えを思わせるような美しい自然が目の前に展開します。またお菓子の神様を祀る中嶋神社は、佐賀の菓子づくりが発展していった歴史を垣間見るような神社ですし、故事に見立てて勇壮な祭りとなったトンテントン祭りなど、伊萬里神社が縁起や伝統を大切にしながら発展させていった歴史は、素晴らしいものがあります。皆さんも伊萬里神社を訪れてみて、その素晴らしさに触れてみてはいかがでしょうか。

 

伊万里川と参道

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