江戸時代に誕生した巨大な灌漑施設、先人の残した遺産が現代人に自然の恵みをもたらす白水大池

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ため池

たくさんの水量を蓄え、自然豊かな白水大池公園

福岡県春日市にある白水大池公園は、たくさんの水量を蓄える白水大池と池の周辺を囲う木々が見事な自然豊かな公園です。池を一周できる「遊歩道」やアスレチックなどができるレジャー施設が整備され、春日市民にとって身近で親しみやすい憩いの場所となっている白水大池公園。白水大池は、周辺地域の農業用水を支える重要な灌漑施設として江戸時代に大改修工事を行いました。現在は農業用地の宅地化や、近代ダムの建設によりその重要性は低くなりましたが、近年宅地開発が進む春日市において、減少傾向の緑地を維持するためにも、白水大池公園の自然を守っていくことは大変重要です。今回は、江戸時代に行われた白水大池の灌漑事業と白水大池公園の自然や園内施設について触れ、白水大池について迫っていきます。

飢饉を打開したい思いが、人々を動かす

現在の春日市がある旧国名でいう筑前国一帯は、稲作をするに至っては慢性的な水不足に悩まされ、それを解消するために古来より数多くの溜め池が作られました。江戸時代初期、白水大池から少し離れたところにあった須玖村の庄屋であった武末新兵衛は、白水大池の堤防をかさ上げし、増えた水を須玖村に融通してもらえないかと提唱しました。須玖村は農業用水の環境が劣悪で、干ばつになると作物が育たず、飢饉に陥ることがたびたびありました。そんな須玖村の窮状を打開するために、堤防かさ上げの提唱しましたが、白水大池を管理していた上白水村と下白水村は難色を示しました。上白水村、下白水村の両村は、池の貯水量が増えると、堤防が決壊した時に被害が拡大するのではないかとの危惧から簡単には承諾しません。武末新兵衛は粘り強く説得し、やっとの思いで承諾を取り付けることができました。そしてこの地域を治めていた福岡藩の工事許可も必要でした。福岡藩は工事に消極的でしたが、武末新兵衛は幾度も工事計画を練り直して申請したため、藩の役人もその情熱に動かされて、藩からの許可も得ることが出来ました。

白水大池の堤防

巨大な灌漑施設になった白水大池

堤防のかさ上げ工事は、須玖村だけでなく、上白水村、下白水村の協力を得て、農閑期に集中して行われました。そして約9年の歳月を費やした白水大池の大事業は、1664年に完成しました。堤防をかさ上げした白水大池は、溜め池の多い筑前国において突出した規模となり、福岡県直方市にある感田池、福岡県糟屋郡粕屋町の駕与丁池に並ぶ筑前三大池に数えられるようになります。上白水村、下白水村、須玖村の3村共用池となった白水大池は、数度の大雨により堤防が決壊し、人命・農作物に被害があったものの、農業用水の乏しいこの地区の300ヘクタールの水田を賄うほどの灌漑機能を発揮しました。

鳩と対岸の自然林

季節や場所ごとに違う表情を見せる白水大池公園

面積33ヘクタールと、春日地域でも最大の広さを誇る白水大池公園。その敷地の大半は、白水大池と、その周辺に残った自然林で構成されています。白水大池を一周できる約2kmの遊歩道は、直射日光を遮る優しい木々に囲まれながら歩くことができます。場所ごとに違う表情を見せる池を眺めながら散策するのは、心地よいものです。春は桜、初夏は菖蒲や紫陽花、秋は紅葉、冬には椿と四季を通じて、公園内の植物が訪問客の目を楽しませてくれます。白水大池の野鳥は種類が豊富で、水鳥が水しぶきをあげてたわむれている姿を見たり、自然の赤松が群生している場所から野鳥の声が聞けたりします。11月にはカモが飛来し、貯水量約52万立方メートルの池は賑わいを見せます。

白水大池公園の松林

 

レジャーやイベント施設を含めた総合公園として整備される

時代は平成に入ると、春日市の溜め池保全条例に基づき、市民憩いの総合公園として、白水大池公園は整備されるようになります。豊富な水が流れる噴水広場、サッカーやラグビーの試合に使われる天然芝の美しい多目的広場、アスレティックなどの遊具が充実していて親子連れで賑わうちびっこ広場など、レジャーやイベント施設を建設していきました。同じく溜め池保全条例に基づき、白水大池公園の展望広場に立てられた、白水大池を一望できる展望台は、福岡市中心部まで見渡すことが可能で、夜は夜景を楽しむことができます。

先人の作った大きな遺産

溜め池は、人工的に作られた池です。白水大池は大きな堤防を築くことで、大量の水を貯めることが可能になった人工池です。江戸時代前期に武末新兵衛が、飢饉から村民を救うために大改修工事を行った白水大池。高さ10.5m、長さ302mの堤防は、当時の農民にとって希望の堤でした。堤防のかさ上げ工事で、池の面積が約16ヘクタールと筑前国でも抜きん出た規模の池になり、多くの田畑に農業用水を供給することで、村民を飢饉から救いました。それから約350年の年数がたった現在、周辺の自然林と調和した景観を保ちながらも、レジャー施設を含めた総合公園として白水大池公園を整備し、人々から親しまれた春日市のランドマーク的な存在となっています。近年、福岡都市圏の一角である春日市の人口は10万人を越え、白水大池の周辺は、福岡市のベッドタウンとしての宅地開発が加速しています。都市開発による緑地の減少が顕著な現状を考えると、約350年の時を経て形成された白水大池の自然は、大きな財産です。みなさんも白水大池公園を訪れ、先人の偉業に想いを馳せながら、公園の自然に親しんでみてはいかがでしょうか。

長い年月を経て自然と調和した白水大池

 

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