緑多き岩原古墳群の一角にある装飾古墳の専門館、先人の発信した文化に心を寄せ古代の歴史に親しみを感じる熊本県立装飾古墳館

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古墳

 

装飾古墳を専門とする博物館

熊本県山鹿市にある熊本県立装飾古墳館は、装飾古墳を専門として展示している施設です。熊本県は装飾古墳の数が、全国でも突出しており、195基にも及びます。山鹿市の岩原台地に立地する装飾古墳館は、その敷地内に熊本県下最大の前方後円墳である岩原双子塚古墳があり、実際に訪れて見ることで、古墳への理解、親しみが深まるような施設となっています。今回は、装飾古墳について触れていきながら、岩原双塚古墳に代表される岩原古墳群も取り上げ、熊本県立古墳館の持っている総合的な魅力に迫っていきます。

緑に覆われた岩原台地に立地する熊本県立装飾博物館

多くの人が親しみを持てるように周辺施設を整備した熊本県立装飾古墳館

熊本県は、古代の遺跡が点在する菊池川流域の山鹿市・鹿央町・和水町の3地区を「肥後文化の森」として整備し、その中核施設として平成4年に熊本県立装飾古墳館を誕生させました。装飾古墳館の近くには、古代ハス園やアスレチックができる大型遊具があり、人々が楽しめる場所を提供しています。また郷土料理レストラン「やすらぎ館」や農産物直売所「里やま館」が設立されるなど、熊本県民をはじめとする多くの人々が利用し、かつ親しみが持てるような施設整備が進められました。熊本県民の古代文化に関する知識を深め、文化の発展を目的として開館したこの博物館は、この菊池川流域の風土がよくわかるような展示がなされています。

熊本県立装飾博物館の敷地内にある郷愁を感じる石棺

文化集積地帯となった菊池川流域

菊池川は阿蘇外輪山を源に7つの支流を集めながら有明海へ注ぐ一級河川です。この豊富な水量を誇る菊池川からは、豊かな自然環境がもたらされ、先土器・縄文時代の頃から県下有数の文化集積地帯となり、稲作が始まると一大穀倉地帯となりました。当時の繁栄を伺える出土品も多数あり、熊本県立装飾古墳館ではこれらの出土品を展示しています。熊本県立装飾古墳館で展示されているこれらの出土品は、芸術性が高いものが多く、見る人を魅了するものが少なくありません。こうした菊池川流域の繁栄と文化の集積が、後の装飾古墳に代表される古墳文化に影響を少なからず与えたと言ってもいいのではないでしょうか。

模様や色使いが心象深い装飾古墳

日本列島では3世紀後半から約400年間、土を高く盛り上げた墳丘を持つお墓、いわゆる古墳が多く造られます。そのような古墳の中でも古墳内部の外壁や石室、石棺に様々な絵柄で飾ったものを装飾古墳といいます。古墳は日本全国に20万基以上造られたと考えられており、装飾古墳は660基ほど発見されています。そして195基発見されている熊本県の装飾古墳のうち、117基が菊池川流域に集中しており、装飾古墳が盛んに造られた地域と言えるのではないでしょうか。熊本県立装飾古墳館には、文化財保護のために普段みることの出来ない石室内部や石棺を忠実に再現したレプリカを展示しています。模様や色使いなど心象深いものが多くあり、思わず見入ってしまいます。

熊本県立装飾博物館にある遺体を安置した石室のレプリカ

装飾古墳を生み出しやすい環境だった菊池川流域

装飾古墳が菊池川流域に多い理由として大きく2つあると考えられます。1つ目は、赤色の顔料であるベンガラが、手に入りやすかったことです。阿蘇の火山活動によってベンガラの材料となる阿蘇黄土が豊富にありました。そのため古墳の装飾に多用されたことが考えられます。2つ目は稲作の盛んな菊池川流域に、数多くの古墳が造られたことです。弥生時代から稲作が始まったことで、水田を中心とする村落が形成され、それがしだいに「クニ」と呼ばれる政治組織に統合されていきました。稲作の盛んであった菊池川流域は、それらの「クニ」の首長の墓である古墳が286基と数多く点在しており、稲作で得た豊富な財力を背景にたくさんの「クニ」が成立していたことを物語っています。古墳が多く造られた地域に、顔料が手に入りやすい環境が整ったことで、装飾古墳の数が必然的に多くなったのではないでしょうか。

岩原双子塚古墳

間近に体感できる岩原双子塚古墳

熊本県立装飾古墳館の前に広がる古墳群は、大小合わせて13基の古墳が集まる岩原古墳群です。その中でも全長107mある岩原双子塚古墳は、菊池川中流域でも最大級の大きさを誇る前方後円墳です。この地域を支配していた人の墓だと考えられており、周りには一族や家来の墓だと考えられている円墳があり、さらにその周囲には墳丘を持たない庶民の墓が造られていたようです。墳丘の形や濠が当時に近い状態にされており、芝で覆われた古墳は一般人の出入りが自由で、古墳の姿形を間近に体感できます。また熊本県立装飾古墳館の野外展示では、筑後川流域から出土した石棺やレプリカがあります。

古代のイメージを掻き立てられるような工夫が施されている熊本県立装飾古墳館

日本国内の約38%にも及ぶ装飾古墳を有する熊本県。平成4年に総工費約16億円をかけて完成した熊本県立装飾古墳館は、世界的に有名な建築家の安藤忠雄氏が設計した装飾古墳に特化した博物館です。熊本県立装飾博物館は、単なる展示のための建築としてではなく、周辺の緑に囲まれた岩原古墳群と一体として見せようとする環境博物館です。岩原古墳群の中心をなす岩原双子塚古墳と熊本県立装飾古墳館は点対象に存在しており、両方を行き来することで、古代へのイメージを一層かきたてるような配置となっています。みなさんも熊本県立装飾博物館を訪れてみて、周辺の自然環境と共生するように存在する古墳を味わってみてはいかがでしょうか。

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