北部九州に勢力を誇った松浦党の鎮守、大地に大きく広がる大楠と古社の風情が心潤す青幡神社

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伊万里市

 

古代からの薫り漂う小さな鎮守、青幡神社

佐賀県伊万里市にある青幡神社は、武甕槌命、経津主命、比売大神、天津児屋根命など多数の神々を祭神とする神社です。西日本を代表する武士団の松浦党がこの地に政庁を置いた時に創建された鎮守であり、青幡神社の社号は、神功皇后の三韓征伐にゆかりのあるものでもあります。青幡神社の境内には巨大な楠があり、神社の長い歴史を現在に伝えているかのようです。今回は、神社を創建した松浦党や、神社が立地する伊万里市東山代町について触れながら、古代からの薫りが漂う小さな社である青幡神社について迫っていきます。

古社の風情が漂う肥前鳥居

現在の佐賀・長崎県北部に大きな影響力を持っていた武士団、松浦党

大和朝廷の役人から下向した祖先を持ち、強力な水軍を持つ松浦党は、特に北部九州の沿海部や島々に強い支配力を持った武士団でした。平安時代の刀寇の入寇や藤原純友の乱、鎌倉時代の元寇では松浦党が大いに活躍しました。松浦党は、その時代に最も勢力のある家が宗家のような役割を果たしてその歴史を受け継いでいきました。文献などを見ていても、鎌倉武士のような堅固な主従関係は松浦党では見受けられません。松浦党は緩やかな連帯で、一族の共存をはかりながら発展していきます。泰平の世となった徳川幕府の時代では、松浦党は形の上では解散しましたが、松浦党の末裔である平戸氏が平戸藩主となるなど、平安時代から江戸時代に渡って現在の佐賀・長崎県北部にその影響力を持ち続けました。

青幡神社の拝殿

松浦党の鎮守となった青幡神社

平安時代の年号「久安」(1145年〜1151年)の時代に、松浦党の2代党祖であった源直は、現在の伊万里市から五島列島に至る地域を支配していました。そして現在の伊万里市東山代町に、政庁を置き、この地の鎮守として一の宮として青幡神社、二の宮として白幡神社が創建され、松浦党一門の安泰と武運長久を祈ります。青幡、白幡の社号の由来は、神功皇后が三韓征伐時に執り行われた神代の天の岩戸の神事で、青と白の幣が使われ、その事にちなんで青幡と白幡の軍旗を造り、三韓征伐時の左右の先鋒旗にされたという言い伝えにあります。松浦党が創建した青幡、白幡の両神社は、現在も地域の鎮守として大切に祀られ、神功皇后に関わる言い伝えと松浦党の歴史を静かに語りかけています。

 

趣きのある景観が多い、伊万里市東山代町

青幡神社のある伊万里市東山代町は、山地のある南から海のある北に向かってなだらかな傾斜のある土地が多く、平地が少ない地形をしています。この高低差のある東山代町の地形が里小路にある武家屋敷跡など独特の趣がある景観や、海沿いの町と農業の町という二つの側面を持った町並みを生み出しました。東山代町は、多様性のある美しい景観に恵まれた環境にあります。青幡神社も東山代町の歴史と小さな鎮守の森に育まれた美しい景観を持つ神社です。青幡神社の周辺には、平安時代の条里制のような区画が残っており、古代の雰囲気が残る道や側溝が存在します。

仏様を祀る青幡神社境内の社

多くの神仏が守護する青幡神社

青幡神社は、松浦党の政庁が東山代を離れた後も、地域の鎮守として守り続け現在に至ります。境内の肥前鳥居には、神額「青幡大明神宮」の文字の上に梵字が一字書かれています。青幡神社は明治の神仏分離令まで神仏習合の神社でした。境内には、「阿弥陀如来尊」、「不動明王尊」、「愛宕地蔵尊」との神額のある社や、素戔嗚尊と仏教の神様を集合した「祇園牛頭天王」といわれる神様を祀った社もあり、神様と仏様の隔てなく信仰していた様子がわかります。拝殿の奥には、「天壌無窮」の文字が掲げられています。天壌無窮とは、天地とともにこの国が永遠に続くという意味で、天照大神が降臨する孫の瓊瓊杵命に与えた神勅です。青幡神社の境内を歩くと、神社を守護した多くの神仏と出会うことができます。

青幡神社境内に力強く繁る楠

訪れる人々に感動と生きる活力を分け与える青幡神社の楠

青幡神社の境内の中央に神木の「青幡神社の楠」と呼ばれる巨木があります。根回り27.7m、幹回り11.4m、樹高16m、枝張り南北19.3m、東西21mで板状根が発達しています。地上5mの所から三方に大枝が分かれ、四方に向かって枝葉が繁る姿は美しいものがあります。推定樹齢は500年以上とされており、幹には空洞がありますが、生き生きと大地に根差している姿は、訪れる人々に感動と生きる活力を分け与えてくれます。楠は、古くから信仰の対象として、九州の神社仏閣に多く植林されてきました。佐賀県の県木にもなっている楠は、熱帯から亜熱帯に分布する常緑高木です。佐賀県内にある楠の中でも代表的な楠の巨木であり、昭和40年には佐賀県の天然記念物に指定されました。

歩いて感じる小さな社の魅力

伊万里湾の西、東山代町にある青幡神社は、この地に政庁を置いた松浦党によって一族の鎮守を願って創建された由緒ある神社です。地域交通となっている松浦鉄道西九州線の里駅を降りると、青幡神社までの1本の参道があります。青幡神社まで直線で結んでいる参道には、長い年月を重ねた側溝、私有地を隔てる石垣、のどかな田畑と、平安時代から続く神社の遺産を味わうことができます。約250mの参道の先には、小さな鎮守の森と古社の風情が漂う肥前鳥居が目に入ります。約900年の歴史を持ち、佐賀県を代表するような楠の大木を擁する青幡神社は、蓄えた自然のエネルギーを感じる素晴らしい神社です。皆さんも青幡神社を訪れてみて、この小さな社の魅力を感じ取ってみてはいかがでしょうか。

青幡神社の大楠にある空洞

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