秋の東与賀海岸を赤に染め訪れる人々を和ませる塩生植物のシチメンソウと、有明海のたくさんの生命を確認し人々の憩い場所を提供する干潟よか公園

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シチメンソウ

海岸に自生し、秋に紅葉するシチメンソウ

佐賀県佐賀市にある干潟よか公園は、日本一の干満差を誇る有明海の湾奥部にあたり、有明海の自然と触れあうことのできる公園です。日本の干潟の総面積の約40%を占める有明海の干潟は、魚介類、野鳥、塩生植物などの貴重な生命を育む場所でもあります。そんな豊かな自然環境を有する有明海の東与賀海岸に面する干潟よか公園は、例年10月下旬から11月上旬にかけて公園の海岸にある植物「シチメンソウ」が赤に色づき、訪れる人の目を楽しませる光景が展開します。今回は、かつて昭和天皇が東与賀海岸の地で興味深くシチメンソウを観察されたエピソードを踏まえながら、特異な種類の生き物が生息する有明海と干潟よか公園のシチメンソウについて迫っていきます。

広大な干潟とシチメンソウ

生物がよく育つ栄養分豊富な有明海

干満の差が6mと日本最大の有明海は、干潮時は広大な干潟が出現し、たくさんの動植物の生息する様子を見学することができます。ムツゴロウやトビハゼ、シオマネキなどの珍しい水生生物が干潟を駆け回り、数多くの種類の野鳥が飛来します。有明海は、九州最大の川である筑後川をはじめ、鹿島川、塩田川、六角川、嘉瀬川、矢部川など、大小100を超える河川の終着地です。山に降った雨は、森林の栄養を含みながら、これらの河川に流れ込み、河川はその栄養分を、海に運びます。また有明海は三方を陸地に囲まれており、多数の河川の水が、まんべんなく流れ込んでいるため、生き物がよく育つ豊かな海になっています。シチメンソウが群生している干潟よか公園の海岸には、たくさんの生き物が生息していますので、是非、観察してみて下さい。

シチメンソウの見学路が整備されている干潟よか公園

特異な性質を持ち、限られた地域にしか自生しない塩生植物でアカザ科のシチメンソウ

ほうれん草と同じ仲間のアカザ科の植物であるシチメンソウは、風波や潮流が少なく、かつ干潮の時には陸になり、満潮の時には海水が入ってくる土地だけに生える特異な性質を持っています。そのため、九州北部、朝鮮半島、中国の一部の限られた地域しか生息しない珍しい塩生植物です。幼い頃は部分的に淡紅紫色をし、夏は緑色、秋には鮮やかな赤に変わり、12月になると種子を落として枯れていく一年草で、様々な色に変わっていく様子から七面鳥の顔のようだということから「シチメンソウ」と名付けられたと言われています。秋には山々の紅葉のように色付くシチメンソウ。海岸線に赤い絨毯を広げたような鮮やかな風景は、干潟よか公園の秋の風物詩となりました。

植物学に造詣が深い昭和天皇が、東与賀海岸のご視察で興味深く御観察されたシチメンソウ

植物学に造詣が深くていらした昭和天皇は、干潟の塩生植物であるシチメンソウに興味を持たれていました。旧鹿島鍋島藩主の家系で第15代当主にあたり、佐賀県知事、参議院議員、科学技術庁長官を歴任した鍋島直紹は、有明海の干潟のシチメンソウを採取して昭和天皇のもとに何度も届けたそうです。残念ながら皇居ではなかなか育たなかったようですが、昭和62年5月に佐賀県嬉野町で行われた第38回全国植樹祭へのご臨席で昭和天皇が佐賀県に来県された際に、東与賀海岸に自生するシチメンソウに触れられました。昭和62年5月23日に昭和天皇は、東与賀海岸から有明海をご視察になり、干潟に生息する魚介類や野鳥、そして海岸線に群生するシチメンソウなどの塩生植物を興味深く御観察されました。

シチメンソウの群生に配慮した護岸工事が施されている東与賀海岸

地道な保全活動で、シチメンソウの大群生を再生

昭和50年代の有明海は、海岸護岸工事が相次ぎ、河川からゴミなどの漂着物が増えたため、東与賀海岸をはじめとする有明干潟のシチメンソウの数が減っていきました。国際自然保護連合から絶滅危惧種に指定され、地元でもその存在が忘れ去られつつあったシチメンソウでしたが、昭和天皇の東与賀海岸のご視察により、一躍クローズアップされることになります。昭和天皇のご視察を契機に、地元自治体がシチメンソウの価値に気づき保護活動を行うようになりました。地域住民を巻き込んだ地道な海岸清掃によって干潟の環境がはかられ、東与賀の貴重な自然を地元住民が再発見することにもつながりました。平成6年には「シチメンソウを育てる会」が発足し、植生の保存を行います。それらの活動を継続していった結果、現在では約3km以上におよぶ大群生を再生するまでに至るようになりました。

美しいシチメンソウとたくさんの生命を確認できる東与賀海岸

平成16年に東与賀海岸に面した干潟よか公園ができました。シチメンソウの群生地をはじめ野鳥やムツゴロウなどの生物を観察できる展望台、有明海を生きる生物を学べる江戸時代の民家を再現した「紅楽庵」などが設けられています。また巨大滑り台やじゃぶじゃぶ池などの遊具も備え、家族連れで賑わう公園に整備されています。平成18年の第26回全国豊かな海づくり大会の会場にもなり、現在の上皇様である当時の天皇陛下がご臨席されました。地元住民を巻き込んだ環境保全活動、多くの人々が憩うことのできる公園整備、各種イベントの開催によってシチメンソウの認知度が増していきました。また、日頃の環境保全活動のたゆまない努力によってシチメンソウなどの植物だけでなく、野鳥の飛来も増加していき、平成27年には東与賀の干潟がラムサール条約湿地に登録されます。近年では鮮やかな赤色になる秋だけでなく、季節によって変化するシチメンソウを見に訪れる人々も増えてきています。みなさんも干潟よか公園を訪れてみて、シチメンソウの美しさに触れ、たくさんの生き物が生息する動植物の王国である有明海を確かめてみてはいかがでしょうか。

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