維新のふるさと山口に於いて大正時代に建てられた肝いりの近代的な議院建築、旧山口県庁舎と旧山口県議事堂は山口県政資料館として残され国会議事堂の原型とされる建築物の美に圧倒される

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山口市

 

山口県庁の敷地にある旧県庁舎と旧県議事堂

山口県山口市にある山口県政資料館は、かつての旧県庁舎・旧県議事堂を利用した資料館です。大正5年に完成した山口県政資料館は、後期ルネッサンス様式を基調としながらも、細部意匠に日本や東洋の手法を取り入れたユニークなデザインが特徴です。山口県政資料館は、現在の山口県庁の敷地内にあるため、新旧の県庁や議事堂などの建物をみることで時代の流れを感じることができます。今回は山口の地方政治の歴史に触れながら、大正時代を代表する洋風建築物で、後の国会議事堂の原型にもなったとされる山口県政資料館について掘り下げていきます。

自然豊かな山口盆地に立地する山口県政資料館

室町時代末期、「西の京」と呼ばれるほど華やかなだった山口

山口県庁のある山口市は、室町時代中期に当時西国で権勢を誇った守護大名の大内氏によって建設されました。室町時代後期になると応仁の乱などの戦乱で京の都は荒廃したため、多くの文化人が山口に移り住み、神社仏閣もたくさん建設され、「西の京」と呼ばれるほどの華やかな町になりました。しかし大内氏が滅亡すると山口の町は衰退してしまいます。その後山口を領有していた毛利氏は、江戸幕府の指示により萩を本拠地としていました。しかし幕末になり倒幕へ動き出すようになると、交通の要所である山口に本拠地を移します。

山口県政資料館の廊下

幕末に長州藩の本拠地が山口に移る

1863年に長州藩主である毛利敬親は、艦船からの攻撃を受けずかつ、瀬戸内地域へのアクセスの良い山口を本拠地とし、現在の山口県庁の場所に藩庁を置きました。そして倒幕への動きを加速させた長州藩は、京都、大坂、江戸との往来が頻繁になり、交通の要所である山口に置かれた藩庁の重要性が増していきます。その後長州藩は薩摩藩などと共に歴史の表舞台に立ち、明治維新を成し遂げました。明治4年の廃藩置県で藩庁はなくなりましたが、その地は山口県庁に引き継がれ、現在に至るまで、山口の政治の中心の役割を担っています。

旧県庁舎の旧知事室

大正時代の近代的な建築物だった旧山口県庁舎・旧県議事堂

幕末の長州藩の頃から山口の政治の中心であった山口県庁の地に、近代的な洋風建築物の庁舎や議事堂が建てられたのは、大正時代になってからになります。大正5年に完成した旧県庁舎・県議事堂は、「関西建築界の父」とも言われた建築家・武田五一と公共建築の営繕に携っている官僚で建築家でもある大熊喜邦が設計しました。そしてこの2人を指導したのが、明治建築界の三大巨匠の一人で、大蔵省営繕の総元締めとして絶大な権力を握っていた官僚の妻木頼黄でした。妻木頼黄は、港湾・税関・煙草・塩専売などの施設建設に関わり、明治27年に起こった日清戦争では大本営の置かれた広島に臨時議院の建物を短期間で完成させ、この功績で叙勲を受けています。

旧山口県議事堂の旧議場

国会議事堂の原型となる造りの山口県政資料館

妻木頼黄は、議院建築の研究を行っており、国会議事堂の設計も進めていました。明治時代末期には、政府が国威の発揚を目指して国会議事堂の建設を検討するようになり、官僚であった妻木頼黄は、ライフワークとして取り組んでいた建築物が、実現しそうになりました。しかし建設を推進していた桂内閣が大正政変で総辞職したため、建設計画は延期となります。妻木頼黄は、国会議事堂の建設着工を見ることなく、旧山口県庁舎・旧県議事堂が完成した大正5年に亡くなりました。その後、妻木頼黄の指導を受けて旧山口県庁舎・旧県議事堂を設計した武田・大熊の両氏は、国会議事堂の建設に大きく関わりました。このように現在の山口県政資料館の建物は、その設計に議院建築にとても造詣の深い人物が関わっており、昭和11年に完成した国会議事堂の原型になる造りとなっています。

旧山口県議事堂

往時の旧県庁舎や旧県議事堂の姿を今に伝える山口県政資料館

大正5年に完成した旧山口県庁舎・旧県議事堂は、昭和50年に議会棟、昭和59年に本館棟・厚生棟の新庁舎が完成するまで、県庁としての機能を果たしました。県庁としての役割を終えたのち、この素晴らしい建物を多くの人々に知ってもらうために昭和60年からは、山口県政資料館として開館しています。古い県庁と議会棟の2つが現存するのは全国で2例しかないといわれている山口県政資料館。庁舎建築史上に類をみない歴史的価値や学術的価値を有している旧県庁舎や旧県議事堂が往時の姿を今に伝えています。煉瓦造りで内装は漆喰、外壁はモルタル仕上げとなっている建物は、シンプルで優美な西洋の後期ルネッサンス様式を基調としながら、随所に斬新さが感じられます。随所に独創的な意匠を施しながらも、建物全体に美しい調和をもたらせており、設計者の強いこだわりには、圧倒されるものがあります。

 

文化都市山口において、歴史の重厚感を感じる山口県政資料館

山口県政資料館は、市役所、国の出先機関など官公庁や美術館、博物館などの文教施設が立ち並ぶ山口市の中心部にあります。そんな行政と文化の一大ゾーンにある山口県政資料館は周辺施設に比べて格段に古い建物で、昭和59年に国の重要文化財に指定されています。大正時代に建築の主流となった西洋風の造りは見事で、気品あふれる白い建物はまるでそこだけ時間が止まったかのようにも見えます。日中に一般開放されている山口県政資料館は、山口県の歴史に関わる展示を見ることができます。大正時代のクラシカルな雰囲気が漂う山口県政資料館は、自然と調和した神社仏閣が点在する文化都市・山口において、その歴史の重厚感を感じずにはいられない文化施設です。皆さんも訪れてみて、山口県政資料館の良さを発見してみてはいかがでしょうか。

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